アレルギーもハラルも…食の安全守る絵文字「フードピクト」
アレルギーのある児童の机に貼られたエビや卵などの「フードピクト」シート=神戸市中央区
言葉がなくても、料理に含まれている原材料が一目で分かる絵文字「フードピクト」の利用が進んでいる。アレルギーを引き起こしかねない小麦や卵などがイラストにしてあり、令和元年には大阪市で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議の会場レストランでも使用された。関西のベンチャー企業発“優しい絵文字”は世界基準を目指す。(中井芳野) 【写真】鶏肉や牛乳、カニなど示す「フードピクト」の例 ■安心くれるステッカー 「あっ、きょうもストローがない」。3月上旬、神戸市立こうべ小学校(同市中央区)の2年生の教室で、給食当番を終えた横畑心美(ここみ)さん(8)は自身の机を見て、ほっと小さな胸をなでおろした。 横畑さんはアレルギーで牛乳が飲めない。ただ、これまでに何度も、配膳ミスで牛乳パックやストローが机に置かれることがあった。誤って口にすることはまずないが、給食の時間になると少し緊張する。 しかし、今日はなかった。今月に入って、配膳係はずっと“ノーミス”を続けてくれている-。 その理由は、横畑さんの机上に貼られているステッカー。牛乳のイラストが描かれたフードピクトだ。 神戸市教育委員会は3月、学校給食でアレルギーや宗教上の理由により特定の食材が食べられない児童の「誤食」を防ごうと、食物アレルギーなどがある児童の机に、口にできない食材のステッカーを貼る実証実験を実施した。周囲の子供たちも一目で把握でき、配膳ミスを防ぐ効果を期待してのものだ。 アレルギーを持つ児童たちは実験以降、周囲の友人たちから「食べられないのを知らなかった」と声をかけられたという。同小の中田宗義校長は「フードピクトで誤食手前だった『ヒヤリ・ハット』もなくしていきたい」とする。 横畑さんもこの取り組みに「うれしい。前より安心して食べられる」と笑顔をみせた。 ■きっかけは研修生の悩み 成田空港や関西空港などの玄関口をはじめ、国内100社約1600店の飲食店やホテルなどで導入が進むフードピクト。モノや行動をわかりやすいデザイン、絵で示す「ピクトグラム」の一種だ。 開発のきっかけについて、神戸市でベンチャー企業「フードピクト」を経営する菊池信孝さん(35)は「研修生の小さな声からスタートした」と懐かしむ。 約15年前、大阪外国語大(現・大阪大)の学生だった菊池さんは2001年のアメリカ同時多発テロ事件を機に平和活動の重要性を痛感し、国際協力機構(JICA)の学生ボランティアに励んでいた。主に中東から来日した研修生らが国内に滞在する間、日々の困りごと相談に応じたり、日本文化を紹介したりしていた。観光名所や和食を教えると喜んでもらえる一方で、イスラム教徒の研修生からは、こんな悩みを打ち明けられることが度々あった。 「日本語の表示が読めず、食品に何が入っているか分からない。怖くて思ったように食べられない…」。イスラム教では、豚肉やアルコールなどの禁忌があるからだ。 大学で留学生にも尋ねてみると、普段口にするものは日本語が得意な仲間に成分表示を訳してもらい、食べることができるのか判断している、と聞かされた。自身で調理することがほとんどで「1人での外食は足がすくむ」というのだ。 菊池さんはそんな窮状を知り、同級生ら約10人に声をかけてボランティアサークルを設立。学園祭で軽食を提供する店を出店し、そこで英語や中国語、韓国語でメニューの原材料表示を添えた。反応は良かったものの、他の言語の留学生からは「言語を増やすか、パッと見て分かるようにしてほしい」と注文を受けた。 そこから試行錯誤すること約1年。牛乳や小麦、エビカニの甲殻類などを簡単な絵柄で描き、誰が見ても一目で原材料が分かるフードピクトを完成させた。 菊池さんは「食事は1日3回やってくる。絵柄で示すという簡単な仕組みだが、生きやすくなった人がきっといる」と胸を張る。 今ではアレルギーを持つ幼い子供たち向けにも応用され、「オタフクソース」(広島)や冷凍食品を扱う「ニチレイ」(東京)の食品表示などにも使われる。 「たとえば、このレーンにはこの材料をどれくらい入れるといった、詳しい仕事の手順なども絵や数字で表示できるはず。工場など外国人労働者らが多く働いている現場でも生かせる」 菊池さんはフードピクトの発展する未来をこう思い描いている。