外国人実習生の命、どう守る 災害に触れぬ「日本での暮らし方」講習

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毎日新聞

ベトナム人技能実習生グエン・ヒュー・トアンさんの葬儀=埼玉県本庄市の大恩寺で2020年9月27日、中村聡也撮影

 宮崎県椎葉村で9月、ベトナム人技能実習生2人を含む計5人が台風10号に伴う土砂崩れに巻き込まれた。1人の実習生は遺体で発見され、もう1人の実習生ら3人は行方不明のままだ。実習生は日本語の災害情報を理解するのが難しいほか、台風や地震に慣れていないことから「災害弱者」になりやすい。命を守るため、何ができるのか。  「トアン、返事をして」。SNS(ネット交流サービス)を通じた呼びかけに、最後まで返信はなかった。  埼玉県本庄市のベトナム寺院・大恩寺。9月下旬、椎葉村の土砂崩れで死亡した実習生のグエン・ヒュー・トアンさん(当時22歳)の葬儀が執り行われた。  参列した東京都内の専門学校生、グエン・ヒュー・ホンさん(23)は、グエンさんのまたいとこ。幼い頃から一緒に遊び、来日後もSNSで連絡を取り合っていた。土砂崩れ直後から何度も安否確認のメッセージを送ったという。「彼の笑顔を見られないと思うと悲しい」。目には涙がたまっていた。  土砂崩れは9月6日午後8時ごろ発生。グエンさんは受け入れ先の建設会社「相生組」の事務所にもう1人の実習生と避難したが、裏山が崩れ、同社の社長らとともに押し流された。現場は土砂災害警戒区域で、椎葉村は避難勧告を発令し、村民に通知していた。約200メートル離れた避難所には、6日午後6時時点で39人が避難していたという。  出入国在留管理庁によると、2019年末時点の技能実習生は約42万人で、ここ5年で倍増した。だが、防災への啓発は十分とは言えない。政府は17年、実習生の保護強化のため、技能実習法を施行した。同法は最初に実習生を受け入れる監理団体などに対し、日本での暮らし方などを教える講習を義務づける。だが、講習内容を指示する運用要領では、地震や台風などの災害について触れられていない。  実習生への災害情報の通知は、受け入れ先の団体や企業、自治体の自主努力に委ねられている。講習を実施している長野県佐久市の「ERIKA日本語学校」は、19年に台風19号が上陸した際、実習生にSNSで状況を知らせたり、知人を通じて避難所に連れて行ったりするなどの措置を取った。だが、同校の担当者は「対応は個々の団体によって異なる」と話す。  都道府県と政令市のうち、宮崎県を含む32自治体(6月時点)では、大規模災害時に「災害多言語支援センター」を設置し、実習生らに母国語で情報提供をしている。だが、宮崎県は今回の台風10号について「被害は大きくならない」と判断し、センターを設置しなかった。  大恩寺の尼僧、ティック・タム・チーさん(42)は「実習生を受け入れるということは、命を預かるということ。受け入れ先は災害が起こった際、実習生を安全な場所に避難させてほしい」と訴える。技能実習制度に詳しい神戸大大学院の斉藤善久准教授は「自治体や消防と連携し、職場や地域単位で実習生が参加する避難訓練を行うべきだ」と指摘する。【中村聡也、塩月由香】

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