新型コロナウイルスのまん延が、世界中で農家経営を直撃している。移動制限のあおりで農作業を担う外国人労働者が不足。農作物の作付けや収穫が進まず、畜産の現場からも悲鳴が上がっており、各国は補助金や融資などの支援策を打ち出す。
外国人労働者に大きく依存する欧米の農業は、移動制限に伴う人手不足が深刻だ。特に、野菜や果樹、酪農など、手作業が多い分野で影響が大きい。農家からは「春の作付けが進まない」「収穫できずに畑で腐ってしまう」といった悲鳴が上がっている。
米国メディアによると、昨年は全米で25万人以上の外国人労働者が農業分野で雇用された。米国は農業団体の要求などを受け、メキシコ人農業労働者向けの入国ビザの手続きを緩和する方向で調整している。
欧州でも外国人労働者不足は深刻だ。新型コロナウイルス対策で閉鎖した国境で、旧東欧諸国などからの農場労働者の移動を認める方向で調整が進む。
各国では、農家被害を最小限に抑えるため、関連補助金政策を打ち出している。
米政府は農業分野で235億ドル(約2兆600億円)を投じ緊急支援する。うち140億ドル(約1兆5000億円)を農産物信用公社(CCC)の融資財源に充てる。融資と名付けているが、市場価格が融資基準の価格を下回れば、農家は担保の作物の所有権を放棄する。基準価格は実質的な政府の買い入れ保証価格となる。
95億ドル(約1兆円)は畜産、園芸・特産農家などが地元の直売所やレストラン、学校に出荷している場合の減収に充てる補助金。CCCの融資対象ではないが、移動制限や学校閉鎖で打撃を受けている多くの農家を救済する。
欧州連合(EU)はまず、EU域内農家が無理のない返済計画で利用できる低金利の新しい融資を始める。20万ユーロ(約2400万円)までの借入を可能とする。
既存の共通農業政策(CAP)の拡充策でも対応する。農家の補助金支払申請期限の延長。手続きが遅れても補助金が受け取れるように配慮した。さらに直接支払いの前払い分を50%から70%に、条件不利地での経営などを支援する農村振興支援の前払い分を75%から85%に引き上げ、農家の手元に運営資金を早めに届ける。
また、加盟国が独自の支援策を可能にするよう規制を緩和する。農家に対する直接の支援はEUが担当しているものの、新型コロナの打撃の程度は加盟国によって大きく異なる。農家に対する補助金の上限を定めた国際的な規律を超えない範囲で、各国政府に裁量を与える方針だ。
日本農業新聞