外国人労働者の受け入れ拡大のため新設された在留資格「特定技能」の制度が始まって4月で丸1年を迎えた。外国人人口比で全国3位の群馬県に同資格で在留する人は2019年12月末現在で86人と少ない。制度活用が進まない背景には、受け入れ手続きが煩雑なことや技能実習制度の方が都合が良いと考える採用企業・事業者の姿勢もあるようだ。【妹尾直道】
「家族と離れるのは寂しいが、お金をためて家族のために頑張ろうと思った」。19年秋に特定技能で来日したベトナム人のホワン・アイン・トゥさん(35)は館林市の金属加工業「内山製作所」で溶接作業に励んでいる。
同社ではベトナムから20~30代の22人を特定技能で受け入れた。増産と工場拡張を理由に特定技能の活用を決め、制度開始直後の19年5月にベトナムで元技能実習生対象の説明会を実施。賃金も好条件で、新たな住居も整備した。首藤広一総務部長は「生産量も増えてきて、新たに人を雇える制度としてちょうど良かった。仕事ぶりが既に分かっているので日本人社員も喜んでいる」と制度活用のメリットを話す。
他方、全国的にも制度の活用が進んでおらず、政府が19年度に想定した全国での受け入れ人数は最大約4万7000人。20年2月末時点で特定技能での在留外国人は全国で2994人(速報値)にとどまる。
外国人の受け入れに詳しい前橋市の行政書士、江口安美さんは「必要書類がかなり細かい。行政書士でも作業が大変だ」と説明する。高度な知識を有する技術者や通訳など対象の在留資格「技術・人文知識・国際業務」の申請に比べても数倍の書類が必要だという。
また、ベトナムなど送り出し国側で必要な国内手続き、さらに特定技能試験合格者と受け入れ企業とのマッチングの仕組みも十分整備されておらず、外国人採用に関する一定のノウハウのない企業にとってはハードルが高い。技能実習生では認められなかったより条件の良い勤務先への転職が可能な点も特定技能保持者の採用が広まらない理由にもなっている。
新型コロナウイルスの感染拡大も影を落とす。世界全体で人の往来が制限され、各産業で生産や売り上げの減少が起こる中、近年、右肩上がりだった外国人労働者の雇用がしぼむ可能性がある。
県内では、技能実習生や留学生を中心に外国人労働者数が増加し、19年10月末時点で過去最高の3万9296人となった。ぐんま暮らし・外国人活躍推進課の西和一課長は、特定技能で暮らす県内の外国人について「労働者として、地域の生活者としてロールモデル(手本)として活躍してほしい」と期待する。