外国人労働者の受け入れを広げる改正入管難民法の施行から4月で1年。静岡県内でも、法改正で新設された在留資格「特定技能」は周知不足などを背景に伸び悩む一方、外国人材は技能実習生を中心に増加の一途だ。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大による渡航制限で技能実習生が来日できない事態など、新たな課題も生じ始めている。
「(感染拡大の)影響が長引くと人繰りが苦しいが、実習生なしでの業務は想像できない」―。3月中旬、自動車用のドアミラーを手がける「カヤ精密工業」(焼津市)。国内外で感染終息の兆しが見えない中、榧守(かやもり)正樹工場長は不安を口にした。
同社は十数年来、中国人技能実習生を迎え、現在も10人が働く。しかし、実技試験のため3月に来日予定だった元実習生は新型コロナの影響で入国が延期に。5、6月にも計6人を迎える計画だが、先行きは見えない。昨年から勤務する肖麗さん(37)は空路の運休で「5月の連休中の一時帰国は諦めた」と肩を落とす。
技能実習生と企業を仲介する監理団体にも懸念が広がる。約150人の外国人材が登録する「県日中経済協同組合」(静岡市葵区)では2月以降、中国からの入国見通しが立たないという。
平野一恵理事は世界的な感染拡大で、技能実習生の渡航制限や受け入れ企業の業務縮小などによって「多方面で影響が生じかねない状態」と危惧。反対に、特定技能は人事担当者の問い合わせ程度にとどまり「制度がまだきちんと認知されていないのでは」と現状を分析する。
■特定技能まだ32人技能実習から移行が大半
出入国在留管理庁によると、県内での「特定技能」での在留人数は19年12月末現在、32人。全国でも千人を超える程度で、政府が初年度に想定していた最大約4万7千人にはほど遠い状況だ。
芳和建設工業(浜松市東区)の鉄筋加工現場で働くベトナム人グエン・バン・コンさん(26)は同年10月、技能実習2号から特定技能に資格を移した。来日から3年。「実習期間後も日本で働きたい」と、在留期間が5年間延長できる特定技能に移行した。現在は現場責任者の一人として活躍する。
建設など14分野の技能実習生は就労期間の終了後に無試験で特定技能を取得できるが、コンさんの手続きには7カ月を要した。同社の国井均代表は「必要書類が多く煩雑な上、新制度で受け入れ前例がなく手続きはまさに手探りだった」と振り返る。ただ、新卒者の採用は依然厳しい。「技術を習得しながら意欲的に働く貴重な戦力の確保のためなら手間を惜しまない」
県内で働く特定技能資格者の大半は技能実習からの移行組。国内外で行う試験で資格を得て働く人は宿泊業の1人にとどまる。
外国人技能実習生権利ネットワーク(東京)の佐々木史朗さんは「特定技能は技能実習に接ぎ木するような制度設計。転職など働く側に一定の自由があるものの、制度自体にはまだ不備も多い」と指摘する。
<メモ>静岡労働局によると、昨年10月末時点で県内で働く外国人材は前年同期比12.5%増の6万4547人。特に技能実習生は同27.7%増の1万5308人と顕著で、このうち中国からの実習生は3353人と約2割を占める。
静岡新聞社