新型コロナウイルス感染拡大により、留学期間を終えながら帰国できずに困窮する外国人留学生を大阪大が支えている。大学が宿泊施設を無料で提供し、食堂の運営団体も食事を支援。帰国後は公衆衛生やマラリア対策などの分野で働くことを目指す若者たちは「本当にありがたい。母国で社会に還元することで恩返ししたい」と、研究テーマの勉学を続けている。
支援のきっかけは3月に大学院情報科学研究科を修了したパナマ出身のセバスチャン・アギーレさん(33)のSOSだった。3月末に帰国しようとしたが、突然パナマの空港が閉鎖。アパートの部屋はすでに引き払っていた。
所属していた研究室経由で相談を受けたのは、研究者用のゲストハウス(約40人)を所有する同大核物理研究センターの職員、崎山千佳子さん(45)。「住むところをなくした不安を想像し、すぐに動かねばと思った」。センターは部屋の無料提供を即断し、アギーレさんはその夜から宿泊できるようになった。
この話を知った大学が調べると、他に3人の留学生が同様の境遇に陥っていることが分かり、いずれも学内の宿泊施設を無償で提供。大学内で食堂やコンビニなどを運営する一般財団法人恵済団も「我々にも手助けできることはないか」と、4人に1日3食の金券を渡す支援を始めた。4人は外出を控え、部屋で読書やリポート執筆にいそしむ。
大学院で環境医学を学んだ中国・内モンゴル自治区出身の劉栄さん(31)は食堂から徒歩5分ほどの宿舎に入居。「腰痛の持病があると伝えたら、食堂に近い部屋を用意してくれた。帰国したら日本の良い環境と日本人の親切を伝えたい」。専攻は予防医学で「南京で研究職に就き、日本で勉強したことを活用して公衆衛生に貢献したい」と話す。
大学の免疫学フロンティア研究センターでマラリア免疫学を研究していたフィリピン出身のチェリス・アブレニカさん(26)は「帰国できなかった時はすごくショックで悲しかったが、このような支援を受け、とても幸せ」と話す。帰国後は「アフリカのため、マラリアのワクチンの製薬会社に就職したい」という。
アギーレさんも「おかげさまで健康を維持できている。帰国できるまで有意義に過ごしたい」と、コンピューター関連の本を読むなどして過ごす。アギーレさんへの支援を知った駐神戸パナマ総領事からも大学に礼状が届き、感謝の言葉と共に「直接お礼を申し上げられる日を楽しみにしている」とつづられていた。
文部科学省によると、日本の大学・大学院などに在籍する外国人留学生は約31万人。日本が支援する国費留学生(約9000人)で3月中に帰国を予定した326人のうち、3月末時点で165人が帰国できなかったという。【三角真理】
最終更新:5/11(月) 20:19
毎日新聞