東日本大震災後に人口が減少した被災地で、外国人技能実習生が復興する地域の貴重な働き手となっている。異国で不安を抱えながら働く人たちを支えようと、インドネシア人の親睦団体「東北家族(クルアルガ・トーホク)」は、東北に住む技能実習生らをつなぎ、日本でも「家族」をつくる後押しをしている。【藤田花】
「日本人は話すのが早い。日本語が分からない時、怒られたら、悲しい気持ちになる」。宮城県石巻市で暮らす20代のインドネシア人技能実習生の女性は、たどたどしい日本語で懸命に気持ちを吐露した。
2019年12月に来日し、食品加工会社の工場で実習する。毎週月曜から土曜まで働き、報酬は月約15万円。家賃や水道光熱費などを差し引くと、手元に残るのは9万円ほどで、うち7万円を母国の家族に仕送りする。「将来はインドネシアで家や車、田んぼを買いたい」と目標を語るが、日本語が壁となり、不安な日々を送っている。
東北家族の代表を務めるイスワユディさん(46)のスマートフォンには、こうした実習生からの相談が毎日のように届く。フェイスブック上でつながるのは1000人以上。当初は東北在住のインドネシア人9人の集まりだったが、震災後の復興需要の高まりなどからインドネシア人実習生が増え始めると、次第に彼らの相談窓口となっていった。
以前は「休憩時間がもらえない」「給料が低い」といった労働時間や賃金に関する相談が大半だったが、最近は日本語の能力不足や文化の違いによる行き違いが問題となるケースが増えた。「日本では言葉も文化も仕事のルールも違う。原因はコミュニケーション不足で、お互いのことを理解しあっていないから」と説明する。
宮城労働局によると、19年10月現在の県内で働く外国人技能実習生は前年同期比793人増の4469人。全国的にも人手不足の日本経済を支えているが、一方で実習先からの失踪も課題となっている。実習先の労働条件や環境の問題に耐えかねて逃げ出すだけでなく、悪質なブローカーにそそのかされて失踪するケースもある。
東北家族が活動を通じて心がけてきたのは、トラブルを抱えた実習生が失踪しない環境づくり。花見やパーティーなどのイベントを開くことで仲間同士の結びつきを強くし、何かあったときに相談しやすい関係を築こうとしている。警察署と連携して交通マナーの講習を開くなど、基本的な日本のルールを学ぶ機会も設けている。
イスワユディさんは「実習生はインドネシアの名前を背負っている。『逃亡』だけはしないでほしい」と伝え続けてきた。多少の誤解が生じても、普段から対話を重ねることで日本人とインドネシア人の「壁」がなくなることを期待し、「自分の長所、短所を言い合える本当の『家族』のような日本人の仲間をつくってほしい」と話す。
◇コロナの影響も
新型コロナウイルスの感染拡大で、東北家族が重視してきたイベントの中止を余儀なくされている。ラマダン(断食月)明けを祝うパーティーを6月に塩釜市で開く予定だったが、約300人分の食事や会場の予約をキャンセル。9月に石巻市で開催予定の「インドネシアフェスティバル」も延期を検討している。
イスワユディさんは、経済の落ち込みが実習生らの雇用に与える影響を懸念。「給料がもらえないとか、いろんな問題が出てくると思う」と話し、相談に乗る準備を進めているという。
最終更新:5/10(日) 9:23
毎日新聞