新型コロナウイルスの感染拡大は、非正規滞在の外国人らの健康管理にも影響を及ぼしている。NPO法人「北関東医療相談会(アミーゴス)」は1997年から、健康保険に未加入や経済的に苦しい外国人を対象に、関東各地で医療相談会と銘打った健康診断活動に取り組んできたが、中止せざるをえない状況になっている。事務局長の長澤正隆さん(66)に現状と危惧していることについて聞いた。【吉田卓矢/統合デジタル取材センター】
◇クラスター発生懸念、医療相談会断念 医療物資もなく
――アミーゴスの活動について教えてください。
◆東京や埼玉、群馬、栃木など関東各地で年に数回、協力してくれる病院などにおいて、経済的な理由で病院に行けなかったり、健康診断を受けられなかったりする外国人を対象に医療相談会を開いています。毎回、ボランティアの医師や看護師、通訳、医療ソーシャルワーカーらの協力を得て、身長・体重の計測、尿・血液検査、心電図、レントゲン撮影、問診などを行い、健康に問題がある人を支援団体や病院につないだり、食料支援を行ったりする活動をしています。
――新型コロナウイルスの感染拡大は会の活動にどのような影響を与えていますか。
◆医療相談会ができなくなっています。3月に予定していた茨城県取手市での相談会は中止になりました。更に、5月17日の群馬県太田市の相談会も先日、中止が決まりました。
開催にはさまざまなリスクが考えられます。医療相談会は、ボランティアや受診者を合わせると200人ほどの規模になります。こうした人々が関東各地から1カ所に集まります。たとえ事前の検温を求めたとしても、新型コロナの感染者には無症状の人もいると言われており、現状では、ウイルスを持ち込ませないようにする保証がありません。万が一、感染者集団(クラスター)が発生すれば、場所を提供してくれた病院や活動そのものが風評被害に遭う恐れもあり、継続が困難になります。ボランティアも感染リスクがあれば、来るのをためらってしまいます。
更に、必要な物資も不足しています。再開には、十分な数のマスクや消毒用アルコール、体温計、防護服などを確保する必要がありますが、探し回っても手に入らず、頭を抱えています。再開には、社会的すう勢や感染の状況などを勘案して対応したいと思います。
◇「無保険者を診る病院は限られ最寄りの病院で探すのは困難」
――医療相談会が開けない中、継続している活動はありますか。
◆入管施設に収容された後に仮放免となった非正規滞在の外国人は働くことができず、多くは経済的に困窮しています。現在、17家族に対して、定期的に食料品を送る支援をしていますが、彼らも新型コロナへの不安を抱えていると思います。食料品に加えて、支援者からいただいたマスクを数枚ずつ入れました。本当は消毒用アルコールも送りたかったのですが、手に入らないので次亜塩素酸の入った塩素系漂白剤を代わりに入れました。
個別に電話などによる医療相談も受け付けています。相談内容によっては、会のメンバーが外国人の自宅を訪問します。マスクを着けたり、相談前後に消毒液で手を洗ったりするなどの対策はしていますが、個人でできることには限界があり、不安は拭いきれません。
――外国人から不安の声などは上がっていますか。
◆埼玉県内のベトナム人の方が38度以上の熱が続いて、食べ物の味もしないという事例がありました。本人だけでなく、私も保健所に確認しましたが、普通の病院へ行ってくれとしか言われない。しかし、非正規滞在の外国人の場合、無保険の人が多い。通常時でも、無保険の人を診てくれる病院は限られており、最寄りの病院で探すのは困難です。ウイルスは、日本人も正規の外国人も非正規の外国人も関係なく感染します。韓国などのように、ドライブスルー形式で誰でも検査を受けられる体制を整えるべきです。
シンガポールなどでは、外国人労働者のための宿泊施設でクラスターが発生したという報道がありました。日本でもお金に余裕のない外国人は、ルームシェアをして暮らしているケースがあります。こういったところでクラスターが発生すれば、地域のリスクにもなりますし、差別なども助長されかねません。
一方、仮放免中の外国人については、定期的に入管への出頭が義務づけられています。何時間も電車を乗り継いで出頭する人がいるため、感染リスクを心配していましたが、出入国在留管理庁が緊急事態宣言を受けて当面の間、出頭不要としました。少し安心しました。
◇「健康指導を行う機会がなく、今後に影響しないか心配」
――無料相談会を開催できなくなって心配なことはありますか。
◆仮放免など非正規滞在の外国人は、腰痛や糖尿病などを抱えている人が多く、医療相談会に訪れる人の血糖値などの数値は、日本人の通常の数値より悪い。我々が行っている医療相談会しか健康管理をする機会がない人がほとんどです。緊急事態宣言による外出自粛要請などで、こうした人々の健康状態はますます悪化する可能性があります。現状では、確認するすべや健康指導を行う機会がなく、今後に影響しないか心配です。
コロナウイルスの感染拡大が収まる気配のない中、再開の見通しが立たず、本当に困っています。貧困や無保険など非正規の外国人の置かれた状況を考えて、18日、少なくとも新型コロナへの世界的な対策ができるまで、こうした外国人への国民健康保険などへの加入促進や治療費免除に加え、政府が打ち出した10万円給付の対象に彼らも加えるよう国に求める声明を発表しました。ウイルスの感染拡大防止や基本的人権の観点から速やかに実行していただきたいです。
最終更新:4/23(木) 10:28
毎日新聞