日本語が十分に話せない外国人労働者の権利保護へ、静岡県内の労働組合が相談態勢を強化している。改正入管難民法の施行で外国人の労災事故や雇い止めなどのトラブル増加が見込まれるためだ。支援者や通訳を介して相談を受け、団体交渉や訴訟でのトラブル解決につなげている。
藤枝市の日系ペルー人の男性(53)は2016年、県中部の水産加工会社で冷凍の魚を削る作業中、機械の刃に左手の親指が巻き込まれけがを負った。工場では機械の安全カバーが使われず、指を守る金属手袋も着用が徹底されていなかった。男性同様に日本語が分からない外国人の多い職場だったが、外国語の注意喚起の掲示や指導もなかったという。
男性は労災認定を受けて治療したが、親指には今もしびれが残る。その後、知人の紹介で労働組合「静岡ふれあいユニオン」に相談。団体交渉を経て損害賠償を求め派遣会社と水産加工会社を提訴し、19年12月に和解に至った。男性は「会社が悪くても会社に言われるがまま、労災申請だけで終わる人が多い。一人で訴訟はできなかった」と振り返る。
同ユニオンでは、過去に年1~2件だった外国人の相談が、外国人のコミュニティーで口コミが広がり、近年は10件近くに増加している。小沢満夫執行委員長は「外国人の労働問題は日本人より単純なものが多い。日本語や日本の常識を知らないことに、つけこむ経営者がいる」と憤る。
同組合以外にも、焼津市の地域労組などが外国語のパンフレットを作り、通訳の協力者を確保するなど支援に力を入れる。小沢委員長は「外国人労働者が増えれば条件の悪い職場で働くケースも増える」と警鐘を鳴らす。
■県弁護士会も無料相談会
県弁護士会はブラジル人が多い浜松国際交流協会(HICE)と共に無料法律相談会を開いてきた。19年4月からは県国際交流協会と連携し、静岡市で月1回の無料相談会を始めた。4月以降は開催回数を月2回に増やす。
静岡市の相談会は事前予約制で、通訳同席で1日3人程度の相談を受ける。離婚や借金の法律相談が多いが、急な雇い止めなどの労働トラブルを抱えた外国人も訪れる。
県弁護士会外国人の権利委員会委員長の浅井裕貴弁護士は「近年は外国人の依頼を受ける頻度が上がったと感じる」。開始から1年経過した静岡市の相談会は予約が埋まる日もあった。「昼間働く外国人が相談しやすいよう、会員制交流サイト(SNS)のテレビ電話機能の利用なども検討したい」と話した。
静岡新聞社